猫びより
【赤ひげ先生インタビュー】山口武雄

【赤ひげ先生インタビュー】山口武雄

(猫びより 2017年11月号 Vol.96より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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呼ばれれば全国どこにでも出張し、避妊去勢手術を行う

「赤ひげ先生インタビュー」のコーナーは、「猫びより」が創刊した2000年から続いていて(途中、お休みしている時期もありましたが……)、創刊2号目にご登場いただいたのが、山口獣医科病院(神奈川県大和市)の院長、山口武雄先生。今回、なんと17年ぶりに、再登場いただくことになった。

山口先生は、長年、飼い主のいない猫の避妊去勢手術に力を入れ、「出張避妊去勢手術」で活躍する獣医師としても知られている。

久しぶりに山口獣医科病院を訪ねると、建物は少し様変わりしていたが、病院の雰囲気は昔のまま。再会した山口先生に手術室を案内されたところで、17年前、この2台の手術台で、次々に運ばれてくる飼い主のいない猫の避妊去勢手術が行われていたことを思い出した。
「病院で年間約2~3000頭、出張で約7~8000頭ですから、年間約1万頭は避妊去勢手術をしています」と山口先生。

出張手術は、数人の獣医師とチームを組み、全国津々浦々の手術会場に足を運ぶ。そのスケジュールは、今年の8月を例にとると、8月5日(土)は千葉県の御宿町で朝から手術、その日のうちに茨城県に移動して、翌日6日(日)の朝から手術して帰路。次は、8月21日(月)から23日(水)までの3日間、三重県で約200頭、24日(木)には京都に移動し、70頭手術して帰路。ざっとこんなところだ。

17年前と変わらず避妊去勢に力を入れている山口先生

17年前と変わらず避妊去勢に力を入れている山口先生

出張手術の依頼は、主に公益財団法人「どうぶつ基金」というボランティア団体やその他の団体の他、行政、個人から依頼もある。
「関東近郊でしたらスタッフと車で移動しますし、大阪、京都、三重、沖縄、石川など遠方のときは新幹線や飛行機で行きます。基本的に依頼があればどこでも行きますよ」

そう話す山口先生は、もうすぐ70歳。「先生のお休みはいつですか? 疲れませんか?」という素朴な疑問には「休みはないねぇ。長年続けていて慣れているから平気」と、驚くほどのバイタリティなのだ。

保護された子猫が病院に到着。まずノミの駆除を行う

保護された子猫が病院に到着。まずノミの駆除を行う

そんな話をしていると「これから保護した猫を連れて行く」というボランティアさんからの電話が入る。まもなくやってきたのは、7頭の親猫と生後1ヶ月ぐらいの子猫たちだ。ボランティアさんの話では、この子たちは避妊去勢をせずに屋内外で多頭飼育をしている人の猫で、メス6頭とオス1頭+11頭の子猫。飼い主は、なかなか手術を承諾しなかったそうだが、ボランティアさんの説得に応じ、この日、猫たちを無事保護、来院となった。

「子猫が家の外で生まれた場合はカラスに襲われたり、病気で亡くなったりします。家の中で生まれた場合、そうした危険はないものの、近親交配でネズミ算式に増え、多頭飼育崩壊は目に見えています」(ボランティアさん)

その間も、山口先生他、2名の獣医師が、7頭の猫に順番に抗生物質、麻酔の注射など手術前の処置をし、耳カット、毛刈り、手術に進む。
「今日の夜、さらに5頭ぐらい保護して連れてくるということですので、夜、また手術ですね」と話す山口先生に、思わず「大変ですね」というと「まあ、慣れですから」と笑った。

ちなみに、猫の耳は「桜の花びら」のようにV字にカットするため「さくらねこ」と呼ばれ、これは「どうぶつ基金」の「さくらねこ活動」のシンボルでもある。

これからボランティアさんによる里親探しが始まる

これからボランティアさんによる里親探しが始まる

今日、誕生した7頭のさくらねこは、元の飼い主のところに戻され、11頭の子猫は、里親が見つかり次第、ボランティアさんの手で里子に出されることになる。

動物愛護センターに持ち込まれる動物が『ゼロ』になる社会を目指して

山口先生が、出張避妊去勢手術を始めたのは、昭和59年ごろ。「最初は『どうぶつの会』というボランティア団体から依頼を受けて始めました。当時は、移動車の中が手術室。まるで野戦病院みたいで、『TNR(※)』という言葉も聞かれない時代ですから、かなり珍しい活動だったと思います。あれから33年になりますが、今は依頼主が準備した会場や手術ができるように改築したボランティアさんの自宅などが手術室です」。

山口先生をはじめ、協力する獣医師、「どうぶつ基金」をはじめとしたボランティア団体の活動の目的は、不幸な猫や犬を増やさない=「殺処分ゼロ」だ。

「TNR活動も世の中に浸透しつつあり、飼い主のいない猫の避妊去勢手術を安価で受ける動物病院も増えています。ボランティア団体の熱心な活動など総合的な力によって、殺処分は年々減少傾向にあります」

どうぶつ基金の三重での出張避妊去勢手術会場。 保護された猫たちが続々と運ばれてくる

どうぶつ基金の三重での出張避妊去勢手術会場。
保護された猫たちが続々と運ばれてくる(写真提供・どうぶつ基金)

中でも画期的な事業として『どうぶつ基金』による「さくらねこ無料不妊手術事業」がある。これは全国の協力動物病院や行政、ボランティアとの協働で、無料で避妊去勢手術を行い、年間1万数千頭の避妊去勢手術を実施している(2016年度実績)。「どうぶつ基金」の理事長・佐上邦久氏の話では、2020年の東京オリンピックまでには、殺処分ゼロになることが予想されるという。

山口先生は語る。
「全国的にみるとすでに『殺処分ゼロ』となっている地域もあります。ただ、動物愛護センターに持ち込まれる猫や犬は『ゼロ』ではありません。まだまだ多くの猫や犬がさまざまな理由で持ち込まれますが、殺処分の期限が来る前にボランティアに引き取られるため『殺処分ゼロ』ということになるのです。

獣医師、ボランティアが力を合わせ、さくらねこを誕生させる

獣医師、ボランティアが力を合わせ、さくらねこを誕生させる(写真提供・どうぶつ基金)

私たちがやらなくてはいけないのは、動物たちが動物愛護センターに『1匹たりとも持ち込まれない社会にすること』。これが本当の意味での『殺処分ゼロ』なんです。

私の夢は、現役の獣医師でいる間に、本当の意味での殺処分ゼロを実現させること。それを目指し、呼ばれれば全国どこにでも行って、1匹でも多くの猫に避妊去勢手術を施したいと思っています」

※TNR…Trap(捕獲)、Neuter (不妊手術)、Return(もとに戻す)の略。TNR活動とは、飼い主のいない猫に対して避妊去勢手術を行って、猫が天寿を全うするまで地域全体で世話をすることを意味する。

山口獣医科病院

神奈川県大和市桜森2-22-19 TEL 046-261-2669
診療時間:9:00~13:00、16:00~19:00(水曜休診)
http://yamaguchivet.xsrv.jp

Takeo Yamaguchi

1948年生まれ。日本大学獣医学部獣医学科(現:生物資源科学部獣医学科)卒業。1974年、山口獣医科病院を開院以来、飼い主のいない猫や犬の不妊手術に力を注ぐ。雲仙普賢岳噴火災害、阪神淡路大震災、スマトラ沖地震、東日本大震災後の被災動物の救護、避妊去勢手術活動にも参加。2010年には、環境省から「動物愛護管理功労者表彰」を受ける。

「どうぶつ基金」の活動

「どうぶつ基金」の活動

(写真提供・どうぶつ基金)

どうぶつ基金では、協力動物病院において、飼い主のいない猫の不妊手術を無料で行う「さくらねこ無料不妊手術」を推進しています。手術費用は寄付金やオリジナルグッズの販売収益が大切な資金源になります。

◉寄付をご検討の際は
https://www.doubutukikin.or.jp/legal/business
◉オリジナルグッズのご購入は
http://doubutukikin.thebase.in
◉「さくらねこ無料不妊手術」ご希望の場合は
https://www.doubutukikin.or.jp/activity/campaign/campaign-latest

公益財団法人 どうぶつ基金
https://www.doubutukikin.or.jp

取材・文 西宮三代
写真 平山法行

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